グローバルキャリア塾 連載コラム

留学と国連-世界8カ国で学んだブレずに自分の軸で生きる力

第14回:世界で日本人の力が求められているということー紛争地の最前線で体験した「仲裁の力」<スリランカ編> 2/2

Peace Blossom 代表
キャリアコーチ・マインドセットコーチ
異文化リーダーシップトレーナー
元国連行政官、米軍専門家

大仲千華

国連の行政官(社会統合支援担当)として国連ニューヨーク本部、南スーダンなどで和平合意の履行支援、元兵士の社会統合支援、人材育成に約10年従事。80人強の多国籍チームのリーダーを務める。閣僚経験者も任命される政府要員向け国連PKO国際研修の講師。内閣府「平和構築・平和維持に関する研究会」委員。「自分の軸で生きる練習-オックスフォード・国連で学んだ答えのない時代の思考法」を刊行。コーチングのプロとして自分の軸で生きる大切さを伝えている。オックスフォード大学修士課程修了。

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Peace Blossom

(2022年10月15日掲載)

 米軍(USNPS)の専門家として、スリランカ軍対象の国際研修の教官を務めていた時のことです。

相手は、何万人もの犠牲者を出した内戦の当事者でもあったスリランカ軍。

「腹の探り合い」のような最初の一週間が終わろうとしていた頃、参加者の一人から手があがりました。

「あのー、タミル地域ではこういう事もあったんです。。。。」

ほぼ丸1週間、固く口を閉ざしていた彼らの口から出たこの一言の意義は大きいと思いました。

たった一言ではあったものの、自分の体験を話したい・聞いてもらいたいという現れだと解釈しました。

その発言に対して直接的に同意するわけでもなく、否定するわけでもなく、相手のコメントを「受け止める」ことをが大切だと思いました。

教官側は話す(教える)立場ではありながらも、今の政治的な状況を踏まえて、研修内容がスリランカの状況に当てはまることはあっても、直接的にスリランカの内戦には触れないこと、特定の結論に誘導するのではなく「原則」を示すこと、「安全な場を保つ」というスタンスで臨むことを意識していました。

とはいえ、こちらも人間ですから、相手の反応に対して、いろんなことを言いたくなる時もあります。何か分かり易い結論を言って終わらせてしまう方が簡単に思える時もあります。

こちら側の対応はあれでよかったんだろうか?ーと、そんな思いもよぎりました。

しかし、難しい状況の時こそ、あえて、信頼して相手のタイミングを待ち、相手の発言を引き出すことの方が効果的な時があります。

実際、この「小さな一歩」が、週明けに、「大きな一歩」となっていくのを後で見ることになるのでした。

週末に入り、休憩の時間をとった後で、これまでの研修でのやり取りを振り返りながら、この流れをなんとか次に繋げたいと思い、次週の戦略を考えていました。

今のスリランカにとって、ともかく何か参考になるものはないだろうか?と、日本から持参した資料をめくっていました。

9.11から人々がどう立ち直っていったのかについて書かれたアメリカの大学の研究、日本のB級戦犯の手記、世界の紛争地での事例。。。

何らかの資料が手元にあることは多少の気休めになったものの、直接的に答えになったものはなく、ホテルの屋上からインド洋を眺めながら、結局シンプルな結論に落ち着きました。

ーこちらが話す(教官という)立場ではあるけれども、なるべく仲裁的なあり方で臨むということ。
ーそのためには、まず彼らのことを理解しなければならないということ。
ー相手のことを理解するということは、自分の視点と考えには一旦距離をおいて、相手の状況と立場から物事を捉えるということ。特に、共感をもって相手を理解すること、もっと言うと、相手を裁いてはいけないということが鍵を握るということには確信がありました。

インド洋の海風を受けながら、「軍人を職業にするということは、どういうことなんだろう?」「もし、私がLTTEの制圧に関わった軍人の一人だとしたら、今どんな心境なんだろう?」ーそんなことに思いが及ぶと、急に彼らの葛藤と苦しみがリアルに迫ってくるかのように感じられました。

「もう戦争はたくさん。。。」
「なぜこのような内戦を許してしまったのだろう。。。」

軍隊にも住民にも、シンハラ系住民にもタミル系住民の間にも、それぞれに大きな苦しみがあるー同時に、もう二度と内戦には戻りたくないという強い思いが社会全体にあるかのようでした。

そんなことを感じた時、私の心の中で、相手が軍服を着ていようが、司令官だろうが、彼らも苦しみを持つ一人の人間にしか見えなくなっていました。

そして、不思議と「これで週明けに再び彼らの前に立つ準備ができた」と感じました。

さて、研修が再開しました。

研修が第二週目に入り、数日たったところで、研修参加者で大佐の人が私のところにやってきました。

「この内戦で何人もの部下が自分の目の前で殺されるのを見た。腕にはその時の傷もある。それでも私はタミールタイガーを赦したい。自分が楽になるために。」

軍服をめくった腕には大きな傷痕が残っていました。彼はなにかを決意するかのように、ゆっくりと一言一言、言葉を紡いでいるかのようでした。けっして、軽い意味で言ったことではなかったであろうことは彼の言葉のトーンからわかりました。

個人的な会話の中とは言え、スリランカ軍の当事者自身からそのようなことを聞くとは想像しておらず、全くの驚きでした。

その前に、話したのはこのようなことでした。

「『被害者』は加害者に事実を認めて欲しい、謝罪をして欲しい、自分にどんな影響があったのか理解して欲しい、二度と同じことを起こさないと誓って欲しいと望みます。

『加害者』は、被害者に対面するのを怖れること、『加害者』としての苦しみや傷もあることを理解して欲しいと望みます。可能ならば受け入れられることを望みます。

つまり、両方が傷を負うという意味においては、両方ともが「被害者」であると言えます。」

そんな話しをした後でした。

彼らがおかれている状況を理解する上でそれは何かしらの助けになったかもしれません。しかし、それはあくまでもこちら側の仲裁的な態度(相手を裁かないということ、相手の立場にたって相手を理解しようとすること)という土台にたった上で享受されたことだったと思います。

スリランカ軍が、国連など外部の立ち入りや調査団を拒否してきたこと考えると、予想外の展開でした。

研修の最後には、ある参加者の一人がこんな言葉をかけてくれました。

「私たちは日本の復興(東日本大震災からの)を願ってます。戦後の焼け野原の状態から世界の経済大国になった日本は私たちの希望なんです。」と。

内戦を終えたばかりの自国の状況を思いながら、または、自らも人知れず心に傷を負いながら、戦後の焼け野原から立ち上がった同じアジアの日本に希望を見出そうとする、一人の人間から発せられた真摯な言葉でした。

個人的な会話の中ではありましたが、全員が貝のように口を閉ざしてほぼ終わっていった最初の一週間がうそのように思えました。

それは、国や立場を超えて、苦しみを持つ人間に一人の人間として共感する人同士の間におこった繋がりのように感じました。

毎回、そのような何か特別なことが起こる訳ではないですし、むしろ目に見える分かり易い結果がすぐに出ることの方が稀です。

しかし、改めて気づかされるのは、言葉を超えて私たちの態度といったものが相手に及ぼす影響です。

こちらが相手に対してネガティブな印象や見かたを持っていると、たとえ言葉にしなくても、相手との距離や反発を生むと言われています。人間はそうした態度を感じ取ることができるからです。

同様に、まったく逆のこともあり得ます。今回の件は、まさに「真逆の事例」になりますが、このスリランカでの体験は、相手の言うことや立場に同意しなくても、相手に尊重と共感をもつことは可能であること、そして、本当の尊重(honor)と共感(empahty)が関係性に与える影響の大きさを私に教えてくれました。

私たちは、なんとか相手を変えようとしたり、説得しようとしがちですが、言葉を超えた部分において、私たちの態度や関わり方が相手に与える影響も同じ位、またはそれ以上に大きいのです。

そして、この原則は一対一の関係でも、国際的な文脈でも同じように当てはまるのです。

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